ほんの10年前のことを思い出してほしい。世紀末を目前に控え、未来への希望と不安が入り混じった一種独特の興奮が世界を覆っていた頃のことだ。未来は果たして人類にとって幸せなものなのか、それともそうではないのか。あの頃の混沌とした雰囲気の底には、人々のそのような根本的な疑問が横たわっていたのだと思う。世界を騒がせた2000年問題はその象徴だろう。2000年の1月1日午前0時。コンピュータが抱えている極めて初歩的な欠陥がコンピューターネットワークを通じて連鎖反応的に広がり、システムを崩壊させ、世界を未曾有のパニックに陥れるだろう。そう言い始めたのが、誰なのかは知らない。だが、コンピュータの小さな欠陥が人類社会を混乱させるという。奇妙な説得力があった。世界中のコンピュータがネットワークで結ばれ、人々の生活は急速に便利になっていく。しかしその便利さの裏側には、危険な落とし穴があるのではないか?コンピュータが急激に普及することに対して人々が漠然と感じていた不安と、その。子一戸は見事にシンクロしていた。実際に、不測の事態に備えて食料品や水を大量に買い込む人たちまでいたほどだ。